世の中には、「まさかそんな手があったとは!」と思うような逆転の発想によって、新たな価値を生み出した事例が少なくありません。逆転の発想とは、一見ネガティブに見える状況や常識を、まったく違う視点から捉え直すことで、一気に道を拓くアイデアのこと。ここでは、それを象徴する三つのエピソードをご紹介します。
1. 人間を忘れたチンアナゴを救う!――すみだ水族館の「オンライン顔見せ作戦」
チンアナゴは本来とても臆病な生き物で、人が来ると砂に潜って隠れてしまいます。水族館で愛らしい姿を見せてくれるのは、たくさんの来館者いる環境になれているからです。
しかし、新型コロナウイルスの影響で水族館が臨時休館になると、人に慣れていたチンアナゴたちが再び警戒心を取り戻し、飼育員が近づいても、砂の中に潜ってしまうようになりました。
そこで生まれたのが、「来館者を水族館に呼べないなら、チンアナゴと人をビデオ通話でつなげよう」というアイデアです。水槽前にカメラと端末を設置し、全国各地の人たちに「顔を見せてもらう」ことで、チンアナゴに人間の存在を思い出してもらう。こ
れは従来の水族館とは真逆の体験です。通常なら「生き物を見に行く」ものですが、逆に「生き物が人の顔を見る」という発想に転換したわけです。
コロナ禍で外出自粛が続く中でも、多くの人が参加できるイベントとして話題を呼び、のべ200万人が参加しました。
2. 受験生を救う「落ちないりんご」――青森・藤崎町の縁起物
1991年9月28日、青森県を襲った台風19号は観測史上最高の瞬間風速53.9メートルを記録。収穫目前だったりんごのほとんどが強風で落下。そうでなくても、傷ついたりんごは出荷不可能になってしまいました。県全体の被害額は741億円に達し、多くの農家が経営の存続を危ぶまれる事態に。
そんな中、藤崎町のりんご生産者が「強風でも枝に残ったりんご」に着目。「落ちなかった」という事実に縁起の良さを見出し、これを受験生向けの合格祈願グッズとして売り出すアイデアを思いつきます。
りんご1個を特製の化粧箱に収め、全国の神社で祈祷してもらい、縁起物の「落ちないりんご」として販売。すると、受験生やその家族の間で大きな話題になりました。1個1000円という価格にもかかわらず、準備したりんごは瞬く間に完売。結果的に、町の出荷量は減ったものの、経済的な損失は最小限で抑えられました。
現在、「落ちないりんご」は単なる商品ではなく、藤崎町の伝統として受け継がれています。
3. 間違いを褒める「0点ミュージアム」――創造力重視の新たな評価軸
フレーベル館による「0点ミュージアム」は、テストで0点となる解答=間違いの中に潜む「創造力」に注目し、あえて金の額縁に入れて展示したイベントです。
背景には、受験が早期化するなどして、点数主義にとらわれる教育環境があります。そこではネガティブに扱われがちな“0点”でも、創造性あふれるアイデアを再評価したのです。
ちなみに私のお気に入りは…
YouTuberとは何をしている人たちでしょう?→子供に夢と希望とたまに悪い事を教えてる人
問題:花火がカラフルなのはなぜでしょう?→よろこばせたいから
など。
SNSやメディアで大きな話題を呼び、巡回展や関連書籍が検討されるなど、教育現場にも影響が波及。子どもたちの多様な思考を認めることで、「正解至上主義」以外の学び方を提案するムーブメントを起こしました。
発想を逆転させる類型
これら3つの事例を俯瞰すると、「逆転の発想」を実践するヒントが見えていきます。
- 行為や立場を反転するすみだ水族館のチンアナゴのケースは、「見る→見てもらう」という行為の逆転。お客の立場から救う立場へ、立場も転換しました。
- ストーリーがネガティブをポジティブに変換する青森の「落ちないりんご」は、災害の大打撃をストーリーの力で付加価値に替えました。ネガティブな物事のなかにこそ、ポジティブなストーリーのタネが潜んでいます。
- 評価基準をひっくり返す「0点ミュージアム」は、“間違いはダメ”という前提を捨て、“創造力があるから面白い”という全く新しい評価軸を提案。正解とは別の軸を与えることで、新しい価値が生まれました。
まとめ:逆転の発想が生むイノベーション
逆転の発想とは、「これまで当然だと思っていた枠組みを、あえて否定してみる」ことから生まれます。たとえば、行けないなら見に来てもらえばいい、被害を逆に誇りに変えればいい、ダメとされていたものを賞賛してみればいい。そうした“真逆の視点”を見つけ出すことで、新たな価値を引き出すきっかけが生まれます。
- 行為や立場を反転する
- ストーリーでネガティブをポジティブに変換する
- 評価基準をひっくり返す
この三つの視点を意識してみるだけでも、ビジネスやマーケティングの常識を破るアイデアを見つけやすくなるでしょう。現状を打開するヒントは、すぐそばの「当たり前の思い込み」の裏に隠れているかもしれません。