インサイトを見事に掘り起こしたビジネス&マーケティング事例

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企業やブランドが成功を収めるうえでは、「インサイト」を掘り起こし、それを商品やサービスに反映させることが重要です。見えにくい悩みや欲求をすくい上げ、それを解決することで新たな価値を生み出すプロセスこそが鍵になります。でも、インサイトを巧みにとらえて成功を収めたビジネス、マーケティングの事例を紹介します。

「貧乳は品乳だ!」小胸女性向けの下着ブランド「feast」

「feast」は2014年、デザイナーで起業家のハヤカワ五味さんが、大学生のときに立ち上げました。彼女が着目したのは、小胸女性が「自分に合った下着を探せない」というペイン。世の中にはさまざまなサイズの下着があるように見えて、実は小胸向けの商品は限定的で、デザインの選択肢が狭いのです。

ハヤカワさんの「なんで、胸がある子にはランジェリーを選ぶ楽しみがあって貧乳にはない⁈」というツイートは、大きな反響を呼びました。市場には大きな潜在的ニーズがあったんですね。

また、「feast」が打ち出したのは、貧乳→「品乳」、さらに“シンデレラバスト”というポジティブな呼び方でした。“小胸女性が堂々と、楽しく下着を選べる世界”を提示し、TwitterなどのSNSを活用して急速に話題が拡散。初回発売の200セットが即日完売という大成功を収めました。

消費者が抱える悩みを見える化し、それを肯定的な表現に塗り替えることによって、人々の共感を得る。シンプルなようでいて、大きなインパクトを持つ手法です。

「仇討ちツアー」またの名を「4時間の家出」

次に、一風変わった企画で旅行業界を席巻したツアーについて。日本旅行のカリスマ添乗員・平田進也さんは、主婦の顧客を対象に「仇討ちツアー」を企画しました。またの名を「4時間の家出」。

なぜ、「仇討ち」なのか? 参加者の夫はいつも夜遊びしているのに、自分はできない! という不満を解消する企画だからです。ツアーでは、夫が楽しんでいるような高級クラブやレストラン、ニューハーフショーなどで大いに盛り上がります。

家事や育児に追われる主婦にとっては、まさに日常を飛び出す「家出」。夫や子どもを置いて長期間の旅行には行けなくても、4時間だけ家出して羽目を外して遊ぶくらい、構わないだろう。世間の耳目を引く一種の“型破り”なアプローチとともに、そんなインサイトを突いた企画でした。

20年も前の企画ですが、マーケットのインサイトを考えるうえで、とてもヒントになる事例です。

食洗機は贅沢家電→幸せ家電

最後に紹介したいのが、パナソニックの小型食洗機のPR戦略です。かつては「あれば便利だが贅沢品」という位置づけだった食洗機を、「家族の幸福度を高める家電」として再定義したのが最大のポイントでした。

同社は独自のアンケート調査で、「夫婦が押し付け合う家事」の1位が「食器洗い」であることを明らかにします。食器洗いがなくなれば、夫婦の押し付け合いもなくなる→夫婦関係や家族の幸せに食洗機が貢献する、というメッセージを発信したわけです。

さらに、マンションや単身世帯でも置きやすい小型機種の開発・PRによってターゲット層を広げたことも、食洗機の普及を後押しした大きな要因です。家事の手を抜くためには出費をためらうかもしれませんが、家族を幸せにするために必要なものなら、前向きにお金を使う気持ちになる。これぞ、インサイトですね。

以上の3つの事例に通じて見えてくるのは、確かにあるけれど隠れていた、あるいは当然のように受け入れていた悩みを可視化し、解決可能な課題にしたこと。それぞれの取り組みが、ターゲットのインサイトを的確にとらえ、それを価値へと結びつけています。消費者が無意識に感じている苦痛や、見過ごされがちな欲求をすくい上げて形にする。このプロセスが、ビジネスやマーケティングを大きく前に進めることを物語る事例だといえるでしょう。

インサイトとは何か?

では、改めて“インサイト”とは何を指すのでしょうか。マーケティングにおけるインサイトとは、消費者の表面に出ているニーズだけでなく、その背景にある深層心理や無自覚の欲求を指します。消費者自身が言語化していなかったり、当たり前だと思い込んでいたりする悩みや望みを明るみに出し、“実はこういうことを求めていたんだ”と気づかせるのがインサイトの役割です。

たとえば、小胸女性向け下着の例では、“胸が小さいから下着がない”という単純な不満だけでなく、“かわいいデザインを身に着けたい” “胸が小さいことを卑下されたくない”という深層心理が潜んでいました。また、「仇討ちツアー」の例なら、“夫だけが楽しんでいるのは不公平”“私も羽を伸ばしたい”という主婦の本音に光を当てています。食洗機の例でも、“贅沢に見えるかもしれないけれど、本当は家事の負担を減らして家族の笑顔を増やしたい”といった気持ちをすくい上げています。

このように、“問題がどこにあるのかさえ気づいていない顧客”に対して、その悩みを言語化し、解決策を提示することがインサイトを活用したマーケティングの肝です。顕在化していない課題やニーズを見極め、それをポジティブに転換することで、思わず手に取ってみたくなるような製品・サービスが誕生するのです。

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